調味料は、入れる順番で味が変わる

調味料は、入れる順番で味が変わる

立秋を過ぎました。

砂糖を先に
塩で締める
酢・醤油は後
味噌で仕上げ

暦の上では秋ですが、台所に立つと背中にじわりと汗をかく、あの感じはまだしばらく続きます。それでも夕方の風がほんの少し変わった気がして、そういう小さな変化に敏感になるのが、この時季の良いところだと思っています。

季節の変わり目は、煮物や炒め物の出番がまた少しずつ戻ってくる時期でもあります。そこで今日は、料理をしている人なら一度は耳にしたことがある「さしすせそ」の話を、もう一段だけ深いところから考えてみたいと思います。

砂糖・塩・酢・醤油・味噌、この順に入れると良い、というのはご存知のとおりです。でも「なぜこの順番なのか」と問われたとき、すらすら答えられる方はそれほど多くありません。知識として持っていても、腑に落ちていない、という状態です。

分子の大きさが、順番の理由だった

砂糖を先に入れる理由は、分子の大きさにあります。砂糖の分子は塩より大きく、食材の細胞のすき間に入り込むのに時間がかかります。塩を先に入れてしまうと、塩が食材の水分を引き出して細胞が締まり、あとから砂糖が入る余地がなくなってしまう。だから砂糖が先です。

これを知ったとき、「ではなぜ塩の後に酢なのか」と続けて考えたくなりますね。酢は揮発しやすい成分を含んでいるため、加熱が続くほど香りが飛んでいきます。風味を生かしたいなら、仕上げ近くに入れる方が賢い。醤油や味噌も同じ理由で、香りと色を大切にするために遅い順番に置かれています。

調味料の順番は、経験則として語り継がれてきたものですが、その裏にはちゃんと物質の動きがあります。料理とは、目に見えない分子の仕事を、手と鍋を使って段取りすることなのかもしれません。

実際に試してみると、順番を入れ替えた煮物と、きちんと守った煮物では、口に入れたときの「味の落ち着き方」が違います。うまく言語化するのが難しいのですが、味がばらばらに主張してくる感じと、全体がひとつにまとまっている感じ、とでも言いましょうか。

ちなみに「さしすせそ」は日本料理の基本ですが、これはあくまで煮物などでの目安です。炒め物では火の勢いと時間が短いため、順番よりもタイミングの方が重要になることもあります。原則を知ったうえで、料理に合わせて判断する。そこがおもしろいところです。

調味料を入れる順番は、料理における「段取り」の縮図のようなものだと、私は感じています。急いで全部まとめて入れたくなる気持ちはよくわかります。でも、順番を待つことで引き出される味がある。

立秋の風がそっと変わり始めるように、台所の中にも、待つことで変わる何かがあります。


よろしければ一度、教室の体験レッスンにいらしてください。今日お伝えしたようなことを、台所に立ちながら、ひとつずつ丁寧にお渡しします。

▶ 体験レッスンのお申し込み・お問い合わせ

この記事を書いた人

柿澤ひとし