
水に、季節があります。
これは比喩ではなく、文字どおりの話です。夏の水道水は冬のそれと比べて、水温が高く、消毒に使われる塩素の残留濃度も変動しやすい。微生物が繁殖しやすい季節だからこそ、浄水場では塩素の管理が変わるのです。私たちが「いつもの水」と思って使っている水は、実は一年を通じて少しずつ顔が違います。
大暑を迎えるこの時期、台所の水もまた、そのひとつのピークを迎えています。
塩素は、揮発性の物質です。水温が上がるほど抜けやすくなる一方で、残っている塩素はたんぱく質と反応しやすくなるという性質もあります。昆布や煮干しでだしを引くとき、素材の旨味成分はゆっくりと水に溶け出しますが、そこに塩素の影響が加わると、香りや風味に微妙な変化が生じることがあります。「なんとなく今日のだしは薄い気がする」という感覚には、水の状態が関係していることがあるのです。
同じことは、ご飯にも言えます。米は炊く前に水を吸わせますが、夏は水温が高いぶん吸水が早い。冬と同じ浸水時間では、炊き上がりに差が出ることがあります。これは米の澱粉が水と反応する速度が、温度に左右されるからです。料理の「勘」と呼ばれているものの多くは、こうした物理的・化学的な変化を体が覚えてきた記憶だと、私は思っています。
水を、もう少し丁寧に扱う
ではどうすればいいか。難しいことではありません。だしを引くための水を、前日の夜から容器に移して冷蔵庫で一晩おく。それだけで塩素は相当量が抜け、水温も安定します。水は冷蔵庫の中で、夜のあいだに静かに落ち着くのです。
まるで、眠ることで整うものがあるように。
夏の健康管理において、水分摂取の大切さはよく語られます。けれど「どんな水を飲むか」「どんな水で料理するか」という視点は、あまり表に出てきません。水の質が変われば、だしの質が変わり、汁物の味が変わり、毎日の食卓が変わる。健康への影響は食材だけでなく、調理に使う水にまで及ぶというのが、食の科学が少しずつ明らかにしてきていることでもあります。
料理は、水から始まります。包丁を持つ前から、もうすでに料理は始まっている、と言ってもいいかもしれません。大暑の台所で、水差しに水を汲む。そのひと手間が、今日の一椀を静かに支えています。
夏の水を、少し見直してみる季節です。なぜそうなるのかを知っておくと、応用がききます。教室でお伝えしたいのは、そこです。
浄水器の水、ミネラルウォーター(軟水)をお使いなら、この心配もありません。
