はじめに
料理教室でよくいただく質問のひとつが、
「うすくち醤油とこいくち醤油ってどう違うのですか?」 というもの。
スーパーに並ぶ瓶を前に、名前から「うすくちは塩分が薄い」「こいくちは塩分が濃い」と思われがちですが、実際はまったく逆。うすくちは平均で 18%前後の塩分濃度 があり、こいくちは 16%前後 です。
今回は、和食の調理現場で長年携わってきた経験に加え、醤油の製法や味覚理論をもとに「違いと使い分けのポイント」をわかりやすく解説します。
うすくち醤油の特徴
- 色が淡い:明るい琥珀色で、料理の見た目を損なわない。
- 塩分濃度が高め(約18%):色を薄く保つため、メイラード反応を抑える目的で塩分を増やしている。
- 香りや旨味は控えめ:素材の持ち味を壊さず“裏方”として働く。
教室でのエピソード
先日のだし巻き卵の授業で、生徒さんが「先生の卵焼きはどうしてこんなに鮮やかな黄色なんですか?」と驚いていました。実はうすくち醤油を使ったから。こいくちを入れると卵液が茶色っぽくなり、ふんわり感が沈んでしまうのです。
また春の「若竹煮」では、うすくち醤油を使うことで筍の白とわかめの緑が映え、器に盛りつけた瞬間に歓声があがりました。まさに素材の色と味を引き立てる調味料といえます。
こいくち醤油の特徴
- 色が濃い:赤みを帯びた黒色で、料理に力強い印象を与える。
- 塩分濃度は16%前後:うすくちより低い。
- 香りと旨味が豊か:アミノ酸や香気成分が豊富で、料理全体のコクを深める。
教室でのエピソード
「母の味を思い出したい」とリクエストされた生徒さんと肉じゃがを作ったとき、こいくち醤油で煮ると、煮汁に旨味と香りが広がり、じゃがいもの甘さが際立つように感じられました。仕上がった瞬間「これこれ!」と笑顔がこぼれ、醤油の違いが生み出す効果を体感していただけました。
鶏の照り焼きでもこいくちは大活躍。加熱すると香ばしい香りが立ち、照りも美しく出ます。
誤解しやすいポイント
- 「うすくち=塩分が薄い」 → 誤り
実際はうすくちが18%前後、こいくちは16%前後。 - 「色が薄い=味が薄い」 → 誤り
香りや旨味は軽めですが、塩味はしっかり強い。
教室でも「うすくちで煮たら意外と塩辛く仕上がりました」と驚かれる方が多くいます。名前からの印象に惑わされないことが大切です。
肉じゃがで比べる:薄口で素材感、濃口で甘味引き立て
薄口醤油で炊いた肉じゃが
薄口醤油は色や香りを抑え目に設計され、素材の色と風味を邪魔しません。塩分を高めにすることで色の変化を抑えているため、じゃがいもや玉ねぎの自然な甘さを素直に感じる炊き上がりになります。
実際に教室で薄口と濃口を炊き比べたとき、生徒さんからは「じゃがいもの甘みがすっと伝わる」「煮汁が澄んで上品」といった声があがりました。
こいくち醤油で炊いた肉じゃが
こいくち醤油は香り・旨味成分が豊か。アミノ酸や香気成分が素材の甘味と相乗効果を起こし、甘さがより引き立って感じられます。加えて濃い色合いや香ばしい香りが「濃厚で甘い」という期待感を高め、食欲をそそります。
同じ肉じゃがでも、こいくちで仕上げると「甘さを包み込むコクがあってご飯が進む味」という感想が多く寄せられます。
料理での使い分けのコツ
- 素材の色や上品さを出したい → うすくち醤油
例:だし巻き卵、若竹煮、白身魚の煮物 - コクと甘さを強調したい → こいくち醤油
例:肉じゃが、照り焼き、すき焼き
また、調味のタイミングによっても仕上がりは変わります。
- うすくちは早めに加えて味をしみ込ませる。
- こいくちは仕上げに加えて香りを生かす。
こうした工夫で、同じ料理でも表情を変えることができます。
まとめ
- うすくち醤油は18%前後の塩分で色を淡く保ち、素材感を引き立てる。
- こいくち醤油は16%前後で旨味豊か、甘さを強調する力がある。
- 「どちらが良い」ではなく、料理に合わせてどう使い分けるかが大切。
醤油は日本料理の要であり、使い分け次第で料理の印象が大きく変わります。
ぜひ台所に「うすくち」と「こいくち」を常備し、料理ごとに選び分けてみてください。
教室でも「同じ肉じゃがをうすくち・こいくちで食べ比べる」体験を予定しています。気になる方はぜひ参加して、醤油の奥深さを体感してみてください。